『月と蛇と縄文人』(大島直行著)
縄文文化を不死と再生でとらえる
縄文文化を「不死」と「再生」から読み解く——月と蛇、二つのキーワード。
岡本太郎が火焔土器の芸術性を見出して以来、縄文文化は見直され、研究が進んだと言われるが、半世紀経ち、岡本画伯が鬼籍の人となった今も縄文は謎のママ解けないでいる。そもそもいつからか、という基本的な問いについてさえ、考古学者は黙して語らず、不明のママだった。5、6000年前からが教科書の定説だったが、それが1万5000年前からとはっきり語りはじめたのはつい最近のことである。
そもそも土器は何に使われたのか、煮炊きが目的ならば、なぜ底が不便な尖型なのか、貝塚は本当にゴミ捨て場だったのか、環状列石は墓場だったのか、そうした初歩的な疑問に今も考古学は答えていない。
本書はそうした根源的な疑問を「月」と「蛇」という二つのキーワードから分かりやすく解き明かしてくれる。月には満ち欠けがあり、新月からふたたび満月へと再生する。蛇は脱皮を繰り返えす不死のシンボルである。人類の永遠の悲願である「不死」と「再生」というキーワードから読み解く縄文文化はすこぶるシンプルで理解しやすい。例えば縄文の縄模様は雄と雌の蛇の交尾を象徴したデザイン模様で、永遠の不死と繁栄を願う人々の思いだった。神社の注連縄、相撲の土俵の綱はその縄文の心を今に伝えている。また日本は古来太陰暦を用い、太陽を神とする西洋とは信仰を異にしてきた。大正時代に来日したロシアの民俗学者ニコライ・ネフスキーは月に情緒を深く感じる日本人に注目して「月と不死」を書いていたことをふと思い出した。
長野県諏訪地方へ取材に行ったとき、御室神事という行事があることを知った。諏訪大社では古くから蛇神を崇めており、旧暦12月22日に神官らは半地下の御室に籠もり、藁で作った蛇神とともに過ごした。春3月中旬に御室を出て、御頭祭という春祭りを取り行う。その100日間は蛇の冬眠期間と同じである。諏訪地方が縄文のメッカであることは知られるが、私は「月」と「蛇」のほかに「巨樹」を加えたくなる。御柱祭こそもっとも縄文人の文化を今に残す奇祭だ、と思うからである。